転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


160 変なかまどと村の新しい定番料理



「ルディーン、さっきの魔法で上に積んだ石に溝を彫れないか?」

「さっきの魔法ってディグのこと? でもあれ、穴をあける魔法だよ?」

 テオドル兄ちゃんは資材置き場から持ってきた何本かの木の棒をお父さんとディック兄ちゃんに渡すと、僕にこんな事を言ったんだ。

 でもさぁ、ディグって穴をあける魔法だから模様をつけたりはできないと思うんだよね。

 だから僕はテオドル兄ちゃんにそう言ったんだけど、そしたら多分できるんじゃ無いかなぁって言うんだ。

「さっきお父さんに言われてかまどにかける鉄の棒を二本持ってきたろ。でもこれ、丸いからそのまま乗せると転がっちゃうんだよね。だからそうならないように溝を掘りたいんだ」

「そっか! そう言えば溝が無いと乗っけるとこがごつごつしてても、ころころと転がっちゃうかもしれないね」

 テオドル兄ちゃんが溝を掘りたかったのはかまどをかっこよくする為じゃなくって、鉄の棒が転がらないようにする為なんだね。

 でもさ、溝を彫る理由は解ったけどディグが穴を掘る魔法だってことには変わらないんだよね。

 だからそんな魔法を使って溝を掘れるなんて無理だよって僕はテオドル兄ちゃんに言ったんだけど、やっぱりできると思うって言うんだ。

「よく聞けよ、ルディーン。ほらここ、この石の上のところを中心にして横穴を開けるように魔法を使ったらどうだい? 溝になるんじゃ無いか?」

「あっそっか! そうやって穴を開けたら確かに溝になるよ。お兄ちゃん、頭いい!」

 お兄ちゃんの言う通り、穴を半分にしたら溝になるよね。

 穴を掘るだけの魔法にそんな使い方があるなんて僕はまったく考えもし無かったから、僕は物凄く感心したんだ。

「なるほど。なら鉄棒を置く2箇所と言わず、同じような感覚で何本か掘ってくれるか? そうすれば作る料理によって鉄棒を渡す位置を変えられるからな」

 でね、そんな僕たちの話を心棒をかまどの石に通す作業をしながら聞いてたお父さんがこんな事を言ってきたんだよね。

 そっか、鉄棒の間隔を変えられたら大きさが違う物を焼くとき便利だもんね。

「うん! じゃあ、お父さんたちが今やってるお仕事が終わったら魔法をかけるよ」

 こうして僕は、お父さんたちが穴に木を入れた後に泥をつめて固定しちゃうのを待ってから、できたかまどの上に5センチ間隔くらいで何本か溝を掘ったんだ。


「なんだか変わったかまどになったなぁ」

 こうして出来上がったかまどを見たお父さんはこう言ったんだけど、確かにこれってかまどって言うよりレンガで造ったバーベキューコンロみたいだ。

 今までは大きめな石を積んだかまどを使ってたからちょっと違和感があるんだけど、でも使いやすさで言えばこっちの方がいいと思うんだ。

 だって両方の高さが同じだから上に通した鉄の棒に鉄板とかお鍋を置いても傾かないし、何より下の石が四角くて重いから安定感も抜群なんだよね。

「まぁちょっとなれない形だけど、使い勝手がいいのなら問題は無いか。それより、作りかけのかまどのほうをどうするかだな」

 見た目がいつもと違うだけで使うには問題が無いからこのかまどは完成でいいけど、そうなるとさっきまで作ってたかまどをどうするかって話になったんだよね。

 こっちは焼肉をやるには小さすぎるし、何よりうちの庭には元からもう一個かまどがあるから残しておく意味は無いんだよね。

「とりあえず壊しちゃう? 使わないならあっても邪魔だし」

 だからディック兄ちゃんがこう言ったんだけど、折角お父さんやお兄ちゃんたちが川から石を運んできてここまで作ったのに、一度も使わず壊すのはなんだかもったいないよね。

 だから何かに使えないかなぁって思った僕は、さっきお父さんが木組みをしてお鍋を吊るせば煮炊きくらいには使えるって言ってたのを思い出したんだ。

「そっか。モツ鍋を作ればいいんだ!」

「もつなべ? なんだそれは」

「ルディーンがまたなんか言い出したよ」

 僕が言ったモツ鍋がどんな物か解んないお兄ちゃんたちはこんな反応をしたんだけど、

「ルディーンにいちゃ! もつなべってなに? おかし? スティナ、おいしいのがいいなぁ」

 近くで聞いてたスティナちゃんは、僕が言い出したんだからきっと食べ物なんだろうって思って、こう聞いてきたんだよね。

「あのね、お菓子じゃないけど、とても美味しいお料理なんだよ」

「おいしいの? ならスティナ、たべたい!」

「ほう。じゃあそのモツ鍋ってのは鍋を使った料理なんだな? なるほど、それならこのかまどでも作れるな」

 スティナちゃんとの話から、モツ鍋がなんとなく鍋料理だと思ったお父さんが早速僕の考えてる事を察してくれたんだよね。

 そうなると話は早かった。

「ディック、テオドル、このか窓の上に木組みを作って鍋を吊るせるようにするぞ。ルディーンはお母さんたちのところへ言って、その鍋に必要な準備を頼んでこい」

 お父さんがすばやく僕たちに指示を出して作業に入る。

 で、僕はお父さんたちの邪魔になら無いようにスティナちゃんを連れて台所へと移動したんだ。 


「あらルディーン、どうしたの? まだ遊んでていいのよ」

 台所に行くと、お母さんが焼肉パーティーの準備の手を止めて話しかけてくれたんだ。

 だから僕は、焼肉パーティーの時にモツ鍋っていう鍋料理を作りたいから手伝ってって頼んだんだ。

「もつなべ? 聞いたことが無いお料理だけど、作り方は解ってるの?」

「うん。大体は知ってるよ」

 全部の材料がそろってる訳じゃないから完全に同じ物は作れないけど、前世で見てたオヒルナンデスヨでやってた塩モツ鍋の作り方を覚えてるから、似たようなものを作れると思うんだよね。

「そう。なら作り方を教えてくれる? 準備をしちゃうから」

 僕が覚えてるつくり方で足らないのは、ネギとにら、それに鷹の爪と鶏がらスープのもとだ。

 このうち、鷹の爪は辛いからあっても入れない。だって僕やスティナちゃんが食べられなくなっちゃうもんね。

 次にネギとにらなんだけど、にらはこの間イーノックカウで手に入れてにんにくを入れるから無くてもいいと思うんだよね。

 でも、ネギは小腸と大腸の下ゆでの時に臭み抜きにいるから代わりのものが必要なんだ。

 で、その代わりの物って言うのが普通は食べない玉ねぎの上んところ。

 売ってる玉ねぎだと切ってあるんだろうけど、村だと収穫した玉ねぎを乾かすのにそれで縛って吊るすから捨てて無いんだよね。

「へぇ、こんなのを一緒に入れて煮るのね?」

「うん。鍋に入れる前にこうやって下ゆでしておくと、内臓のお肉の変なにおいが取れるんだよ」

 だから焼肉と一緒に食べる玉ねぎからとったそのネギっぽい部分を使って、お母さんに大腸と小腸の下ゆでをしてもらったんだ。

 で、後は鶏がらスープのもとなんだけど、これに関してはどうしようもないんだよね。

 確かにあったほうがいいんだろうけど今から作るわけにはいかないし、何よりその元になる鶏がらが無い。

 いや、草原にいる鳥とかビッグピジョンとかのならあるけど、鶏系の魔物のはないんだよね。

「とりあえずこれを入れとこ」

 だから今回は、ちょっとおだしには足らないかもしれないけど、お家にあったビックピジョンの腿のお肉を入れることにした。

 ビッグピジョンのお肉って魔物だけあって、かなり美味しいもん。

 これを入れれば、一角ウサギやビッグラビットの内臓のお肉からもおだしは出るから、美味しくなるって僕は思うんだ。

「ゆで上がったけど、これでいいの?」

「うん。煮るのはお庭でやるから、玉ねぎの上んとこは捨てといて、内臓のお肉だけ、ざるに上げといてね」

「解ったわ。その後は何か手伝うこと、ある?」

「ううん、大丈夫。後は鶏肉やお野菜を切るだけだから、僕一人でできるもん」

「スティナは? スティナもなんかおてつだいする!」

 お母さんに後はお野菜を切るだけだから手伝ってもらう事は無いよって言ってたら、今度は横で見てたスティナちゃんがお手伝いをするって言ってきたんだよね。

 だから一瞬どうしようかって思ったんだけど、

「そうだ! スティナちゃんにはあれをやってもらおっ」

「なになに? スティナ、なにするの?」

 そう言えばにんにくの薄皮をむくための、あれをやってもらえばいやって思ったんだ。

「お母さん、やっぱり手伝って。スティナちゃんと一緒にやってもらいたいことがあるんだ。

「うふふっ、なにかしら?」

 僕は戸棚に入れてあったにんにくを取り出すと、お母さんにこれを一粒ずつに別けてほしいってお願いしたんだ。

「それができたらこの袋に入れてから、中から飛び出ないように口を縛ってね。で、スティナちゃんはそれを何度か床にバンバンて投げて欲しいんだ」

「うん! スティナ、いっぱいなげゆ」

 なんでそんな事をするのかを説明すると、お母さんは任せてって言いながらスティナちゃんと一緒に離れていった。

 僕はその間に、モツ鍋に入れる鶏肉やお野菜の準備。

「ルディーンにいちゃ! いっぱいばんばんしたよぉ」

 そして丁度それが終わった頃にスティナちゃんが満面の笑みで帰って来たから僕はそれを受け取って、薄皮を全部むいてからみじん切りにしてモツ鍋の準備は完了した。


「ほう。内臓の肉ってのは焼くのもうまいが、こうして鍋にするのもうまいんだな」

「ああ。むしろこっちの方が野菜にもいい阿須が染みて俺は好きだなぁ」

 お昼過ぎになって、ご近所の人たちとのバーベキューパーティーが始まった。

 内臓のお肉を気持ち悪がって食べない人がいるんじゃないかってお母さんは心配してたけど、始まってみたらみんな美味しいおいしいって食べてくれたんだよね。

 と言うのも、下味として塩とにんにくで漬けた腸のお肉を最初に鉄板において焼いたもんだから物凄くいいにおいがして、お腹ペコペコだったみんながその匂いに釣られて飛びついたからなんだ。

 おかげでいつも食べてるお肉は後回し、みんな内臓のお肉ばっかり食べるもんだから今日食べるために準備した分がなくなっちゃったんだ。

 で、それじゃあ今度はこっちをってみんながモツ鍋に手を出した所、焼いた内臓のお肉とはまた違った食感やそのうまみが移ったお野菜やおつゆが大好評。

 こうして僕たちの村に、新しい定番料理が生まれたんだ。


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